『私は幽霊を見た』、『厭な物語』

戦時中から終戦後の混乱期、そして平成の怪談ブーム直前までの選で、昭和の怪談ブームを俯瞰できる。わりとチープながらも味わい深く、時に哀感が差したりするのが切なくも懐かしい。ところで、幽霊が会いに来るもそれと気付かず、あとであれは死者だったのかと判明する話があるが、むしろ生者同士の世界でさえも実体はあやふやで、知らずにドッペルゲンガーや幽霊と交流しているのかも…実は社会は意外とデタラメで成り立っているのかも…と考えると楽しい。あなたの知り合いは本当に生者ですか?

厭な物語 (文春文庫)

厭な物語 (文春文庫)

それが快であれ不快であれ、感覚の領域を広げることはあらゆる事態への備えとなる。ならば本書のようなコンセプトにも大いに価値がある、いや、いよいよ生きにくさを増しつつある現代においては、必要とさえされる。ルヴェル「フェリシテ」の虚無的な結末、叙情すら感じさせるランズデール「ナイト・オブ・ザ・ホラー・ショウ」、完成度の高いジャクスン「くじ」とクリスチャン・マシスン「赤」、深淵を見せるオコナー「善人はそういない」。おまけにまで念の入ったチョイスにはなかなか厭された。日曜日を台無しにするにはうってつけの一冊。