アーサー・マッケン『怪奇クラブ』、エイモス・チュツオーラ『やし酒飲み』

怪奇クラブ (創元推理文庫)

怪奇クラブ (創元推理文庫)

ロンドンの街で二人の文士が様々な人物から奇怪な話を聞く「怪奇クラブ」、片田舎に顕れた奇瑞を描く「大いなる来福」の二篇を収める。「怪奇クラブ」はロンドンの街のいたるところで出会う話が連関して、次第に怪しげな全体像が浮かび上がってくるという趣向が面白い。それぞれの話は現在の目で見るとそう大して面白くないが、人間の本性になにか忌まわしいものがあってふとしたきっかけでそれが明らかになる、なんてのはなるほどラヴクラフトが好んだ作家だなと。作中詳細に描かれるロンドンの情景とともに時代の雰囲気を楽しんだ。

やし酒飲み (岩波文庫)

やし酒飲み (岩波文庫)

10歳の頃からやし酒飲みに明け暮れていた主人公は、専属のやし酒作りの名人を亡くしたことで、彼を求めて「死者の町」への旅を始める。道中には邪悪な精霊や生き物が跋扈しているが、主人公は呪術を駆使して危機を乗り越えていく…。前々から読みたかった本作を岩波文庫でようやく読了。神話や民話の領域に踏み込んだ世界観は、日本の昔話に近いところがあって案外親しみやすかった。生も死も神も精霊も交じり合い、なおかつ気が抜けているのか酩酊しているのかよくわからない文体と展開で、これはアルコールのお供にうってつけではないだろうか。