G.H.シューベルト『夢の象徴学』、マルセル・ベアリュ『水蜘蛛』

著者シューベルトは講演『自然科学の夜の側についての見解』でロマン主義の人々に影響を与えた人物。本書は講演をさらに敷衍したものであり、夢の象徴についてというよりは夢・啓示・詩・自然をすべて「神の言語」とひっくるめた上で、神秘主義と自然科学が入り混じった独特の哲学が論じられている。現在の目からすれば論理はとんでもないし、自然科学の記述も古くて読めたものではない。とはいえロマン主義の人々が持つ世界観はこうした哲学に支えられていたであろうことも確か。大変だが一度目を通しておけば理解がクリアになりそうだ。

水蜘蛛 (白水Uブックス)

水蜘蛛 (白水Uブックス)

幻想小説ベストなどで度々見かける「水蜘蛛」は異種恋愛ものの短篇で、蜘蛛女を拾ってきた男が家庭を顧みずに恋に溺れるという話。男があまりに身勝手というかあからさまにステロタイプをなぞっているので、そこを了承しさえすれば良質の幻想譚だと思う。にしても「妻と蜘蛛女は表裏一体なのだ」みたいなのはああそうですかと少々鼻白む。他にもエスプリの効いたファンタジックで象徴的な掌編も収められており味わい深い。個人的には「百合と血」の冒頭が思わせぶりな中に幻想を感じられて良かった。

「ある日の午後、例のごとく、サン・ジェルマン大通りの標本屋のショーウィンドーの前で足を止めた。そこには、ほかのものに混じって「あらゆる種類の義眼を制作します」という異様な看板が掲げられていた。その横にはピンクに縁取られた白い陰唇をのぞかせる巻貝、緑石、昆虫、剥製の鰐までがならんでいる。いきなり誰かの手が私の肩に置かれた。それは私の仲間、劇作家で詩人のZ…だった。彼は私が熱心に昆虫をながめているのをみて、かまきりの奇妙な習性について話しはじめた」