デカルト『方法序説』、ハラルト・シュテュンプケ『鼻行類』

方法序説 (岩波文庫)

方法序説 (岩波文庫)

有名な「我思う故に我あり」について今更ながらに確認。デカルトの少し前の世代では医学書と実際の症状が食い違っていれば現実のほうを否認したこともあるというから、古い学問を糾弾して実証的な態度で臨むデカルトの姿勢は、なるほど近代合理精神の父と呼ばれるだけある。前半のモラルに関する部分も苛烈な人柄を感じさせるし、後半は後半で、真実を叫んだばかりに悲惨な結末を迎えたガリレオを意識しながらそれでも一書を残そうとするところに、真理だけを追求する人間の生き様が見える。時代と切り結ばなければ道は開けなかったのだ。

鼻行類―新しく発見された哺乳類の構造と生活 (平凡社ライブラリー)

鼻行類―新しく発見された哺乳類の構造と生活 (平凡社ライブラリー)

かつて南太平洋ハイアイアイ群島に生息していた「鼻行類」についての学術的論文。鼻行類とは哺乳類の一目で、その名の通り鼻を歩行や捕食に用いる、まことに特異な生物の総称である。群島のニッチを占めたために多様な進化を遂げ、ネズミ状のものからタツノオトシゴ状のものまで、きわめてバリエーションが広い。特に植物に擬態するハナモドキ属は仰天で、長い尾で体を支えながら鼻を花に擬して虫を誘き寄せるという生存戦略をとっている。こんな楽しい生物が核実験で滅びたとは返す返すも惜しく、人間の愚かさに憤りを感じずにはいられない。