川村湊『日本の異端文学』、横尾忠則『Y字路』

日本の異端文学 (集英社新書)

日本の異端文学 (集英社新書)

西洋で異端といえばキリスト教がなかば公式に烙印を押すものであり、キリスト教がさほど根付いていない日本で「異端文学」といっても意味が変わってくる。しかしながら「正統」との関わりが異端を決定する点は同じで、となれば異端を観察することが「正統」の定位の見極めにつながる。本書はそのようにして澁澤龍彦中井英夫山田風太郎小栗虫太郎などの読解から、どのように時代が異端を決定してきたのかを論じる。評判の悪い一冊だがわりと楽しく読んだ。包括的なものではなく著者が好きな作家を語るエッセイと考えればよい。

横尾忠則 Y字路

横尾忠則 Y字路

横尾忠則には先入観を持っていたがこれは溜息が出るほど良かった。Y字路の分かれ目から見た構図は消失点が二つあるので、極端な二点透視図法のように歪んだ視覚をもたらし、一種独特の酩酊感を覚える。なおかつ、色やタッチは幻想的で、道の向こうは闇の場合が多い。このことから「人生の岐路」の象徴を読み取ることは当然できるし、行方の定かならぬ二つの方向から規定される現在地の安心に浸るのもいい。思えばこうした安心と不安は、なにひとつ確かなものを持たないのに何故か平然とそれがまかり通っている夢の世界の感覚に近いのかもしれない。