大道寺将司『棺一基』、『岩波講座 転換期における人間4 都市とは』

 

棺一基 大道寺将司全句集

棺一基 大道寺将司全句集

 

 天皇暗殺未遂、三菱重工爆破事件などによって東京拘置所に確定死刑囚として収監中の人物による句集。1996年以降の1200句を収める。2005年頃までは収監された環境や心情を直截に歌うものが多く、作者の背景を抜きにして鑑賞に堪えるものは少ないが、「君が代を齧り尽せよ夜盗虫」「悪霊を持て余したり穴惑」「気が付けば一人になりし雛の夜」などはさすがに凄味を感じる。2006年からはやや作風が変わり、書名にもなった「棺一基四顧茫々と霞みけり」のように円熟を見せる。全体的には特異な人物のドキュメントとして読むべきだろう。

 

岩波講座 転換期における人間〈4〉都市とは
 

 発行は1989年。情報化時代を迎えて姿を変えつつある都市を前に、都市というものの性格と課題を論じる。オスマンのパリ大改造からの流れを汲むコルビュジェの機能主義的都市は、その明晰さゆえに20世紀の都市モデルの基本をなしたものの、あくまでも外から押し付けた計画的モデルであって、内に住む人間との間に齟齬をきたす。殊に東京では高度経済成長期の企業資本主義体制も手伝い、中曽根政権の失策によって地価が天文学的に跳ね上がることで、人の住めない都市を生んだ。現状と地続きのこのバックボーンが確認できただけでもありがたい。