金井美恵子『アカシア騎士団』、渡邊十絲子『今を生きるための現代詩』

 

アカシア騎士団 (1976年)

アカシア騎士団 (1976年)

 

 鋭いまでの自意識に導かれた省察が、時にボルヘス的な幻想の域に高められる。絶品と名高い表題作の「アカシア騎士団」をはじめ、ある種のシンメトリーや対位法を感じさせる手際で織り成された作品は、「書く-夢見る」という行為の彼岸へと通じ、触れ得ぬ物語の感触を伝える。これからはもっと意識してこの人の作品を読んでいきたい。

 

 ほとんどの人が公教育の過程で触れるとはいえ、いや、そうやって押しつけられるものだからこそ、現代詩と縁が切れてしまう人は多い。詩の中に「作者の意図」など規範的な読みを求められては詩はひたすら窮屈なものになる。だが詩は、それが魅力的な謎でありつづけることで、規範から外れた生の受け口にもなり、「わからなさ」は多様な可能性に開かれているがゆえに懐が深い。この本をきっかけにして世界の謎めいた手触りをたしかめるように詩に触れてくれれば、と詩を書く人間の一人として思う。