奥宮正武『大艦巨砲主義の盛衰』、J・G・バラード『殺す』

大艦巨砲主義の盛衰 (新戦史シリーズ)

大艦巨砲主義の盛衰 (新戦史シリーズ)

日清・日露での成功を受けて隆盛を誇った大艦巨砲主義は、戦闘が水上・水中・上空と立体化するに及んでその価値を失っていく。太平洋戦争においては艦隊決戦の機会はほとんどなく、航空機や潜水艦といった新しい兵器の運用が明暗を分けることになった。山本五十六をはじめとしてそれに気付いた人も少数いたが(真珠湾やマレー沖の成功など)、組織的な頭の硬さはいかんともしがたいもので、状況の変化に即応できず無謀な精神論を奉じて敗戦の道を突き進んだ。また本書は大艦巨砲主義を醸成した海戦史の記述も充実しており勉強になる。

殺す (創元SF文庫)

殺す (創元SF文庫)

閉鎖的で平和なコミュニティで32人の大人が殺され、13人の子供が誘拐された。犯行が行われた推定20分間にそこで一体何が起きたのか? ごく短い作品でさらっと読めて、淡々と出来事を追う抑えた筆致は、残酷な出来事を引きのカメラで撮るのにも似て好感が持てる。事件の動機も、インナースペースの探求者たるバラードらしくて良い。小さなコミュニティの出来事が最終的に社会に拡大されるあたりはあまりにいかにもすぎてちょっと笑ってしまった。