中村圭子『魔性の女挿絵集』、赤松啓介『差別の民俗学』

展示も見てきたけどこの本のほうがいいかも(視力が弱いので)。いわゆるファム・ファタル型の女性像を集めた企画で、もう少し範囲を広げて「異界の女」や「新しい女性」も並べるという感じ。こうして本で見ると水島爾保布や名越国三郎のインクが匂い立つばかりの画が美しい。鏡花の「わが恋は人とる沼の花菖蒲」を思い浮かべながら楽しんだ。

差別の民俗学 (ちくま学芸文庫)

差別の民俗学 (ちくま学芸文庫)

差別についての理論的骨子が述べられているのかと思いきや、民俗学者・赤松啓介の履歴というかポートフォリオのようなところがある。その意味では赤松民俗学の入門書にいい。にしても気骨があるのはともかく、戦前の階級史観、ぶっちゃけ「革命」を至上のものとした左翼イデオロギーによって調査が駆動されていたのは、今読むとさすがに時代を感じる。肝心の差別問題については「山の裏道」の存在が個人的に気になるかな。人知れず営まれてきた生活がかつて確かにあり、忘却されているか忘却の淵に立たされていると考えると名残惜しく思う。