前田愛『文学テクスト入門』、シング『西国の伊達男』

 

文学テクスト入門 (ちくま学芸文庫)

文学テクスト入門 (ちくま学芸文庫)

 

 なにか散漫と思えば遺稿をまとめた本とのことで、入門書なら他にわかりやすいものがあるだろう。とはいえ文学テクストをただ漫然と読むだけではなく、テクストを開かれた場として、そこに新しい意味を見出す読みへと誘ってくれる。文学を志向する人以外にも有用な一冊。あるいは、「内向の世代」後の文学状況と引きつけて読んでも面白そう。

 

西国の伊達男 (岩波文庫)

西国の伊達男 (岩波文庫)

 

 アイルランド西海岸の酒場に、父親を殺してきたという若者が現れる。結婚を間近に控えていた酒場の娘がこの若者と出会い…という話。特筆すべきは「父殺し」が英雄的と言わないまでも男らしさを証明する行為として描かれているところで、現在と異なった価値観に面食らう。ところが、この父殺しは同時に忌まわしい行為でもあって、周囲は持ち上げたり忌避したりと態度がころころ変わる。なにやら訳ありの若者と娘の仲は二転三転し、終幕に向けて狂騒的な盛り上がりを見せる。喜劇なのに民俗社会の怖さを感じずにはいられなかった。