東雅夫『百物語の百怪』、澁澤龍彦『犬狼都市』

 

百物語の百怪-ホラーJ叢書 (ホラージャパネスク叢書)

百物語の百怪-ホラーJ叢書 (ホラージャパネスク叢書)

 

 古今の百物語に関する情報をまとめた一冊。記され描かれたものから、怪談会の記録に現代のホラー作品まで、連綿と続く百物語の系譜が一望できる。唱導(法談)や巡物語(語りの会)を起源とする語りの伝統があり、時代が下っては落語や講談にまで辿り着くという、その大きな流れの中に百物語を位置づけることができる点には目からうろこ。鏡花や柳田を中心とする近代の盛り上がりも楽しく(鏡花「吉原新話」がすばらしい)、いつの世も怪に惹かれ別世界をたぐり寄せようとする心性は通じているのだと微笑ましかった。

 

犬狼都市(キュノポリス) (福武文庫)

犬狼都市(キュノポリス) (福武文庫)

 

 初期の3篇を収録。初期だけあって文体にしても内容にしてもまだこなれていない感があって、それはマンディアルグや三島や、あるいは当時の演劇のようなものの影響を露骨に感じさせるところに見て取れる。それでもこれは紛れもなく澁澤龍彦だというのはユーモアの感覚で、赤道の海上に帯状の道があるだとか、天球の運動をして旧神たちの動物園だとかをぬけぬけとでっち上げる想像力が、まことに後の創作へと続く原動力となったのだと感慨深い。解説が倉橋由美子なのも嬉しい。