『奇想遺産』

 

奇想遺産―世界のふしぎ建築物語

奇想遺産―世界のふしぎ建築物語

 

 シュヴァルの理想宮のように一目で「奇想」とわかるところから地味なところまで世界中の建築を集めている。執筆陣がきちんと専門家なので建築的意義を余さず説明してくれるのが良い。辰野金吾が東京駅の裏でキッチュな武雄温泉を作っていたとか、古典主義は多少材料が安くてもダイナミックな空間を作れるとか、たまたま三角地に建てられたフラットアイアンの尖りがニューヨークのビルデザインに影響したとか、小ネタが得られてほくほく。ウィーン分離派やロシアのメーリニコフ邸が好きだがあまりに文化圏が違うジェンネの泥の大モスクには驚いた。

 

奇想遺産〈2〉世界のとんでも建築物語

奇想遺産〈2〉世界のとんでも建築物語

 

 表紙はCGだと思って読み進めていたらラスベガスに実際にある風景だそうで、きれいな二度見をかましてしまった。この巻で面白かったのはパルテノン神殿の逸話で、本来は正面に6本の柱で進められていたものがたまたま8本に変更されたおかげで、それまでの基本形よりすらりと優美なプロポーションが生まれたとのこと。前巻に続いて読んで感じたのは建築的営為の儚さ。砂の城を建てるようなことを人間はずっとやってきたしこれからもやっていくのだろうけれど、それを駆動する夢や欲望といったものが思わぬ形で現れる面白さは堪えられない。