田中貴子『あやかし考』、ヴィクトル・ユーゴー『ライン河幻想紀行』

 

あやかし考 不思議の中世へ

あやかし考 不思議の中世へ

 

 落ち穂拾い的な論考・エッセイ集。中世に流布した伝説や物語の背景にどのような心性があったのか、テキストから探っていく。といっても寄せ集め感がすごいので、タイトルにもあるように「あやかし」の中世に遊びに行くくらいの軽い気持ちで読むといいだろう。特に冒頭の道成寺縁起に関する論考は◯。寺社縁起が創り出される理由に、時代の変転にともなって人々の心に訴えるプロモーション物語が必要とされたとするのは納得がいく。

 

 「少しでも徒歩で旅をすることができるとき、つまり旅を散歩に変えることができるときには、わたしはいつも欠かさず、この趣味を出してしまうのだ。(…)<芸術の女神は歩く>のである。」 ライン周遊の途上で書き継がれた旅行記からの抄録。伝説の生きる土地を実見し夢想の中に入り込むユゴーの筆は滋味深く、ドイツの土俗が香り立つ。キリスト教はもちろんのこと、騎士や悪魔といった存在が象徴する暗さがいかにもドイツ的で良い。付録的な創作物語もデモニッシュで楽しいし、やけに巧いユゴーの画も雰囲気満点だった。