港千尋『ヴォイドへの旅』、W.アーヴィング『ウォルター・スコット邸訪問記』

 

ヴォイドへの旅 空虚の創造力について

ヴォイドへの旅 空虚の創造力について

 

 美術における空虚-ヴォイド的なるものをめぐるエッセイ。作品があるのならそれを取り巻く空間もあり、あるいは虚の空間自体を作品として成り立つ場合すらある。ヴォイドは単に空虚を超えてそこに未分の何かが孕まれる場所であって、多義的な未来に開かれている。彫刻や建築の分野ではこうした空間の認識は普通なのだと思うが自分はあまり意識したことがなかった。美術・インスタレーションに留まらず、ダーウィン(彫刻家としてのミミズ!)や心理まで広い領域をヴォイドに引きつける手際はなかなかにスリリング。

 

ウォルター・スコット邸訪問記 (岩波文庫)

ウォルター・スコット邸訪問記 (岩波文庫)

 

 『スケッチ・ブック』『アルハンブラ物語』などで知られるワシントン・アーヴィングによる回想録。先輩作家のウォルター・スコットの案内で見るスコットランドの景色は、人や物の中に過去や伝説が生きる地と映る。案内役がおそろしく好人物なのも手伝って、土地と人物の双方に愛着を覚えずにはいられない。ただしスコットが愛を語る景色をアーヴィングは「単調だ」と率直に述べたりと、一筋縄ではいかない部分も。羊飼い詩人のジェイムズ・ホッグ(『悪の誘惑』)も近在らしかった。