『中井英夫詩集』、『世界の幻想文学・総解説』
戦前から戦後への作風の変化は、文語から口語へという違いもあるが、言葉の調子と内容ともにどんどん平明で素直なものになっていく。この純化の過程に詩人の真摯な姿勢を見る。なんといっても不明氏の墓に詩を捧げるような人なのだから。
すばらしい電話だつた
時間を超え
まつくろな向うからかかつてきた
その声の限りない甘さ
ああまだ
電話の向うには君がいる
(「声」)
何度目かの改訂版(さらに新しい版あり)。冒頭の四方田犬彦の論によれば、「どこの書店に行っても澁澤龍彦がペーパーバックで容易に読める時代」「幻想的なるものがただちに資本の商業的回路のなかでエンターテインメントとして消費されてしまう今日」において、現実を揺さぶり問い直す幻想文学はいかにあるべきか、受容する読者の側にも求められる。本書は340篇をあらすじ付きで紹介。ネタバレありなので作品名だけ参照する。